階段はひとつの見せ場

建築の部位の中で階段は面白い存在であり、設計する時の腕の見せ所でもある。

建築家の村野藤吾は階段そのものを如何に美しく魅せるのかを突き詰めているようであり、その曲線の優雅さは一度見たら忘れられない。また、フィンランドの建築家のアルヴァ・アアルトは階段に機能的な端正さを出しながら、素材に木や鉄や煉瓦などを使い、自然な柔らかさを纏わせ、北欧モダンの空間にナチュラルに馴染ませていく。

いずれも階段をひとつの見せ場だと考えていたのだろう。それは普通に住宅でも同じであり、日常の暮らしの中で階段に様々な役割や活用の仕方や魅せ方をさせる。

空間の広さにはどうしても限界があり、効率的に広さを有効活用しようとして、時に階段の下に便所を配置したりする。便所は腰掛ける所であり、また法規上は居室ではないので、天井の高さに規定がないこともあり、天井が段々と低くなる階段下の空間を有効活用する際にはもってこいである。

ただ、便所にいる時でさえ、それは日常の暮らしの大事な時間でもあるので、いかに心地よく過ごせるかをデザインで考えたいところで、また階段下にあることを何かに活かしたいと考えた。

階段には「蹴上げ」という部分がある。段板と段板をつなぐ縦の部材で板状のものだが、階段のデザインによっては無い場合もあるが、階段下の空間を利用する場合には必要になる。

蹴上げがある場合、通常は板で塞がれているが、そこに乳白色の「ツインカーボ」という名の二重のポリカーボネート板を嵌め込んだ。この板は光を通すが、乳白色で二重になっているので、中は見えない。

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便所という暗くて狭いイメージの空間に明るさを取り入れたかった。あと、階段という動線の下にあるので、階段を通る人の動きと便所を関連づけしたかった。

昼間は階段に差し込んだ太陽の光が蹴上げの乳白色のポリカーボネート板を透して便所の中まで柔らかく入ってくる。逆に、夜間は便所の照明の灯りが階段の足元灯の役目をするので、便所の灯りだけを頼りに階段の昇り降りもできる。

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階段とその下の便所の相互関係をデザインし、便所に入り込んでくる太陽の光はその日の天気をも反映する。階段という存在が日常の暮らしの中で様々な事柄をつなぐ役目をする。そのつなぐ役目にはまたまだたくさんある。

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