見えそうで見えない距離感が暮らしに必要な時もある

別々にいるのが嫌なのだろうと思った。

最初の打合せで敷地図を見せてもらうと、敷地の形状がほぼ真四角に近かったので、一瞬、コルビュジエの「成長する美術館」が頭に浮かんだ。コルビュジエは3つの美術館を設計し、そのうちの2つがインドにあり、あと1つが世界遺産にもなった上野の国立西洋美術館である。プランは3つともほとんど同じで、真四角の建物の中心部分にエントランスがあり、そこから2階の展示室へ階段でアプローチしていく。展示室は真四角の建物の中を渦巻状に回遊するように配置されており、仕切りがなく展示するための壁が連続しているので、閲覧する方は建物の中を一筆書きに一回りするだけでいい。

打合せでは家族の普段の生活や行動を、特に家にいる時のお互いの距離感を測ろうとつとめる。それは、その距離感がそのままプランに変換できる場合が多いからである。

お話を伺うとクライアントのご主人も奥さんもそれぞれ違う趣味を持っており、休日など家にいてもお互い別々の場所で別々のことをしているらしい。それ自体は普通にあることだし、ではそのお互いの趣味が成り立つように空間を設計すればいいだけだが、問題はその距離感であり、もっというと、その距離感がいつでも同じということだった。

建て替えだから同じ敷地なのだが、それまで住んでいた家は増改築を繰り返したせいか、壁が不自然なところにあり、別々な趣味をするための場所が近くてお互いに干渉していた。そのため、どちらかが先にその場所にいると片方は自分の趣味ができないようだった。

普通ならば、全く違う場所で自分の趣味ができるようにすればいいだろうにと思いのだが、それはしないらしい。要するに、家族がそれぞれ別々なことをしていても同じ空間の中に一緒にいたいのだろうと考えた。

同じ空間の中だが、お互いに干渉することになし自分の趣味ができて、必要な時にはその距離感を縮めて一緒にいることもできるような、お互いの距離感が調整できて、一番離れている時は姿形は見えないが、気配だけは感じるような空間をつくろうとした。

敷地の形状なりに設計すると、ほぼ真四角の建物になるので、真四角の真ん中に2階へ上がる階段を配置して、1階をその階段を中心にキッチン、ダイニング、リビング、玄関と配置して、ぐるぐると回遊できるようにし、お互いの距離感を自由に調整できるようにした。

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その距離感の調整に一役買ったのが真四角の中心に配置した階段である。階段と1階の空間は透明のアクリル板で空調の仕切りをつくったが、場所によって階段の下の部分の壁の高さが違うので、階段越しにお互いが見える範囲も違ってきて、同じ空間にいながら、お互いが見える見えないの調整が少し移動するだけで容易にでき、一番見えないところでも気配はお互い感じることができる。

だから、空間の使い方しだいでお互いの距離感を自由に設定できるので、何年か毎に少し模様替えするだけで、全く違った空間体験もできるだろう。

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