カスタマイズできる余地余白

今日は久しぶりに過去に建てた住宅にお邪魔した。ちょっとした不具合を見に行って、その場で処置して、すぐに帰ってきたが、やはり今は、ちょっと上がってお茶でも、という感じにはならない。

私たちは何もない真っ新なところからはじめて、形にして、完成し、クライアントに引き渡す。それが住宅ならば、そこでの日常や暮らしを想像しながらつくり上げていくが、なのに一度たりとも住むことはなく、そこでの日常や暮らしを体感することもない。

だから、クライアントが羨ましい、そこでの日常や暮らしはきっと楽しいだろうなと思えるものを設計し、つくっているから。

時には、こちらの想像を超えるような暮らし方をしているクライアントもいて、たまに、これからクライアントになるかもしれない人を連れて行って説明すると、そこにリアリティを感じ、それが決め手になることがある。

建築自体のアカデミックなことはとりあえず置いておいて、クライアント目線で考えると、どうもこちらが意図したこととは違うことが行われているということは、カスタマイズしながら積極的に自分たちの日常や暮らしを送ることができると解釈するようだ。

そのようなことは当たり前ではないかと思ったりするが、どうも自分たちの家を、それも新築の家を、カスタマイズしながら住むという発想がないのか、できても模様替えレベルと思うのか、とりあえず、我慢して家に自分たちを合わせるしかないと思うのか。

その人に合わせて、その人用につくったとしても、それはその時点のもので、いくら想像力を働かさせて将来予測をしても限界がある。それを補うために、カスタマイズできる余地、余白のようなものも予め仕込んでおく。

どうもその余地、余白が、確かにあまり他では見ないから、かえってリアリティを感じ、説得力があるのかもしれない。

3523DEFA-8816-4030-BF68-A3F2F332F25F.jpeg

リンク

暮らしの中で見る方角を決める

最初の打合せで「商店街に住むのは本当は嫌なの」というクライアントの奥さんの一言がずっと設計をしている時の課題だった。

どうしたら安心してここで暮らせるか、おまけに面してる商店街の反対側は小学校の校舎の廊下であり、そのことも嫌な理由のようだ、プライバシーが侵されそうな気がするのだろう。

1,2階をテンナントに貸し出すので、住居は3階になる。その時点で商店街とは高さ方向にズレるし、小学校とも間に商店街をはさんでいるので距離がある、それは打合せでも説明したが、先の言葉である。今まで住んでいたところが住宅街の中だから、変わりように差があり過ぎるのかもしれない。

とはいえ、敷地を変更することはできないので、どうしたものかと思案して、商店街や小学校の側は方角としては南だから、明かり取りのためにも開口部は必要であるが、商店街や小学校の方角を見ること無しにほぼ暮らしが成り立てば、商店街や小学校を意識すること無しに暮らせるかもしれないと考えた。

476E9E67-9E96-442D-970B-57466E87F421.jpeg

そこで、屋上をつくり、住居がある3階とトップサイドライトを通して視覚的につなげ、そのトップサイドライトは明かり取りにもなり、お孫さんが遊びに来た時は屋上が庭がわり、そのトップサイドライトを通してお孫さんが見え、コミニケーションができるようにし、むしろ、商店街や小学校の方角とは反対にはなるが、室内空間からしてみれば、そちらの方角がメインのような扱いにし、全く商店街や小学校を意識すること無しに暮らせるようにした。

4EC853A1-1F69-4F03-8A79-50679F7C2D03.jpeg

1228F824-5ECD-435F-9EA9-F8D756A9F053.jpeg

もちろん、クライアントの奥さんは毎日熟睡している。

550B363D-E9EC-42FB-B70A-CA08A1BE0766.jpeg

リンク

可動間仕切りがもたらす暮らし

可動間仕切りをよく使う。大体、そういう時は、クライアントがどういう日常を送りたいか、どういう暮らしをしたいかがはっきりしており、それに対応するために部屋の方を変化させる。

449D0BB9-AED8-4870-BAF6-945A05005B8D.jpeg

一般的には、可動間仕切りを使う時は、可変することにより、どのような部屋の使われ方をしても構わないように、より曖昧で、はっきりと決められない場合である。だから、可動間仕切りを設置することは一種の設計の手抜きのような印象があるかもしれない。

しかし、きちんとクライアントの日常や暮らしを把握した上で設置する可動間仕切りは、クライアントの要望がいくつも折り重なって1つの部屋に表現されている証しであり、より濃く、より深く、限られたスペースの中で日常や暮らしを送るための手段である。

リンク

階段×洗面

階段の構造は、足をのせる段板があり、その段板を支える側板があれば最低限成り立つ。洗面の構造は、洗面器をはめ込む天板があり、その天板を支える脚があれば最低限成り立つ。

共通するのは板であり、階段の段板と洗面の天板は水平であることも共通する。

ただ、階段と洗面は、全く関係がない機能同士である。

少しでも効率よく水回りをまとめたい、それも階段下のスペースが空いているが、そこに壁をつくり部屋にしてしまうと狭くなるし、せっかくの階段の開放性が損なわれてしまう。

ならば、階段と洗面の共通点を頼りに、階段の段板が延びて洗面の天板となり、そこに洗面器を設置し、洗面周りの小物を置く場所として、同じく階段の段板が少しだけ延びて棚状になり、そこに家族分の歯ブラシなどを置くようにした。

CF4BC373-7C8B-4DC2-9FA4-FE3703A1AF2F.jpeg

クライアントの本来の要望はこの階段に滑り台をつくりたいだった。その要望通りに、さらに、洗面の機能を加えた、階段×洗面×滑り台が完成した。

2D632052-4B26-41E3-B2AA-352236038CFE.jpeg

きっと朝などは大忙しだろう、この階段×滑り台×洗面によって、より家族の営みをお互いに感じることとなり、そうしたら、朝がより家族にとって楽しめるでしょ。

リンク

家の中に家でもない場所をつくる

会社でもない、家でもない場所、別に会社にいたくない訳ではなくて、別に家に帰りたくない訳でもなくて、ただ、会社か家かという2つに1つ、二者択一的な生活はずっと続くとちょっとぐらいの変化を求めたくなるかもしれない。

それは決して悪いことではないけれど、こうするべき的な思いにとりつかれると、まっすぐ家に帰ろう、寄り道なんてせず、となると日々の生活が不自由なものに感じられるようになってくるかもしれない。

要領のいい人は行きつけの飲食店などを見つけて、顔馴染みになり、会社の人でもない、家族でもない、友達でもない、そんな人のつながりをつくり、上手に気持ちを受け流し整理して、家路につくのだろうが、なかなかそれもできない人が多そうな気がする。

9F1BE24B-EFFF-4615-9432-4DBF5ABB1C8D.jpeg

だから、ちょっと家の中に、家でもないような場所をつくり、ひとりになれる時間をつくってあげることができたら、少しは違うのかなという想いから、離れをつくったり、部屋ではないが廊下にしては広いような場所をつくり、そこが街の中の広場や通りのような雰囲気をかもし出せば、家の中で気分も切り替り、家族との時間もより楽しめるのではと思ったりして設計した。

リンク

日当たりが厳しい時の対処法は別々にすること

暗い家よりは明るい家の方がいいですよね、暗い家にして欲しいという要望は今までに聴いたことがないです。明るい家にして欲しいという要望もあまりないというか、「明るい家になりますか」という問いかけは何度かありました。

奥に引っ込んだような敷地で、その分静かだけれども、周りを建物に囲まれていて太陽の光が入ってこないかもしれないという心配から。

そういう時はいつも決まって「日当たりはどうにでもなります」と答える。

確かに、敷地の周りを四方建物に囲まれていて、しかも狭小地ともなれば日当たりは厳しいので、よくあるのは日当たりが欲しい部屋、例えばリビングダイニングを2階に持ってきて、日当たりがあまり関係がない部屋、例えば寝室、水回りなどを1階に持ってくるというもの。

ただ、1階はせっかく外の庭などの外部空間と内部空間を連続させることにより広く感じさせることができるので、狭小地に建つ家ならば、尚更、1階にリビングダイニングを持ってきて広く感じさせたいだろう。

そこで、日当たりが厳しい時の対処法は、太陽の光を入れることと部屋を明るくすることを別々に行えばよい。

狭小地で周りを建物に囲まれていたら、太陽の光が1階まで差し込む時間は、季節にもよりますが、1日のうちで多くても3時間くらい、これでは太陽からの直接光だけで1階を明るくするのは不可能です。ただ、2階だと1日中太陽からの直接光で部屋を明るくすることができます。

だから、そういう時は階段を利用して、1階の部屋を明るくする。階段を1階から2階までの吹き抜けだと考え、階段室という部屋に見立てて、2階から太陽の直接光を階段室に放り込み、階段室の中を光が反射し拡散して、1階の部屋まで太陽の光を届ける。

A4CFDB4B-4723-4D85-B85C-9EFD5BCB2F28.jpeg

その際、階段室と1階の部屋との境の壁は必ず半透明の壁にして、光を通すことが必要になる。これによって、昼間は半透明の壁が光っているようにも見えて、部屋を明るくする。2階からは1日中太陽の光が階段室に供給されので、1階の部屋も1日中明るくすることができ、入ってくる火は間接光になるので、熱をほとんど1階の部屋には伝えないから、夏などは明るくても暑くはならない。

リンク


家は遊び場、家は遊具

建物が完成してクライアントに引き渡す時、大概、お子さんが走り回っている。子供にしてみれば家は遊び場、家は遊具なんだなと思う瞬間です。

そんな姿を何度も見ているので、設計している時からクライアントのお子さんに合わせて、それは結構クライアントには内緒で、勝手に盛り込んでいたりする場合もありますが、遊具となるような仕掛けを考えている。

子供の頃の記憶にはよくその当時住んでいた家の情景が入り込んできて、その時の体験と一緒に焼き付いています。きっとお子さんが成長していく上で家が果たす役割ははかりしれないと、結構、その後の成長や人生に影響を与えるのではないかなと思っています。

だから、ほんのちょっとなことなのですが、そこに腰掛けて本を読んだり、皆んなが見渡せるような所をつくったり、扉を開けると視界が開けて、その先にチラッと見える家族を感じたり。

クライアントのために離れをつくったことがあります。離れといっても別の建物になっている訳ではなくて、ひとつの屋根の下にテラスからしか出入りができない3帖くらいの部屋、茶室くらいの広さです、ほんとに狭い、でも、クライアントがひとりになれる部屋をつくりました。

BD48F547-5899-4810-BE32-BA68CA7E7897.jpeg

ただ、その部屋は、出入りはテラスから一旦外に出る必要があるのですが、室内に向かって2つの窓があり、開けると1つはリビング、1つは寝室につながっていて、そんなに勝手にひとりにはなれないようにしてあり、結局はひとりいながら、ちょっと寂しくなるとどちらかの扉を開ければ、家族と、お子さんとつながることができるようにしました。

495D535D-E5AE-4250-8E74-806B92F73F02.jpeg

それは、大人にとっても家は遊び場、家は遊具で、子供の頃の家の原体験の延長に今の家があり、ただ大人になって求めるものは子供の頃の家ではなくて、今の自分が満たされるためのもの、それはお子さんを見ているとわかります、お子さんは親の真似をしますので、だから、打合せではお子さんをよく観察して、クライアントにたくさん尋ねます。

47A3021D-DAAD-448C-BD9A-1489E8205060.jpeg

9917BFB3-F6D2-421F-B5A0-1174344B1E91.jpeg

リンク