省スペース化が生む階段の効果

敷地に建てれるだけ目一杯に建物を建ててしまうと、どうしても満足に庭が取れないし、防犯のことも考えて、子供を遊ばせたり、洗濯物を干すために、屋上が欲しいという要望がクライアントから出ることがよくある。

子供の頃、屋上のある家に住みたいと思ったものです。なぜか高いところに上がるとテンションも上がるし、遠くまで見渡せるのは気持ちがいい。そういえば、学校の屋上へ行くのも好きだった。屋上へ出る扉を開ける瞬間がなんかワクワクしたことを覚えている。

屋上へ通じる階段は、自治体や確認検査機関の判断にもよりますが、建築基準法の住宅の階段の規定を受けないので、省スペース化させるために、急な階段にすることもある。

ただ、階段は廊下と同じように通路なので、人が通る場所として常に空けておく必要がある。廊下ならば、廊下も部屋という考え方をすれば無くすこともできますが、階段はそうはいかない、どうしても場所を占領してしまう。階段下の空間を便所や収納にすることもありますが、今回は2階を大きなワンルームとして、そこを必要に応じて可動間仕切りで仕切り、個室をつくるというプランなので、階段はできるだけ省スペースに、それも視線を遮らないようにして、クライアントの希望である大きなワンルームであることを邪魔したくはなかった。

B0E4BC46-AEC1-4565-A507-1131EF2F1AF1.jpeg

だから、段違い階段にし、段板のみで構成することにした。段違い階段とは、段板が右、左と半段ずつズレて設置されており、人の足の動作に沿った段板の位置になっているもので、階段をより省スペース化できるのですが、自治体や確認検査機関の判断にもよりますが、建築基準法の住宅の階段としては認められていない。今回は屋上へ通じる階段でしたが、一応、事前に確認検査機関へ相談し了解を取り実現しました。

0B5E510E-52C9-41B1-A118-EF571D2F2512.jpeg

この階段ならば、透け透けで、屋上へ出る扉をガラス扉にしたので、太陽の光が屋上から拡散されて2階の空間にまで降りてきて明るくしてくれますし、階段の存在感自体もより無い方向に、視線もなるべく遮らないように、クライアントの望むワンルーム感が出て、不思議なことに階段が造付けの家具のように見えなくもない。

D35CE0D8-0D44-47F4-A4B4-23283B556922.jpeg

リンク

それが最善の設計プロセス

時には建築でも1本の木からはじまることもある。

クライアントとの初回打合せでは、要望を一通り傾聴し、何でもいいから話をしてもらおうとする。様々な問いかけをしたり、ご自宅にお伺いしたならば、室内にあるものに関心を持って尋ねたり、思い入れやこれだけは絶対のようなことも、特にマニュアルがある訳でもなく、その場の即興で、事前に準備もしないようにしている。

何かが情報として事前に頭に入っていると、自分にとって都合がよい言葉や話をクライアントから引き出そうとしてしまい、本来そこでしか聴くことができなかったことに辿り着けないような気がするからで、その場で聴きたいのはクライアントが本当に欲している心の声、それがわからなければ打合せをしている意味がなく、時間のムダで、メールやメッセージでやり取りすれば事足りる。

不思議なことを突然クライアントが言い出した。
「この木は父親が亡くなってから突然生えてきたのです」
「だから、建て替えする時にこの木は切らないで欲しい」

だだ、古い家を解体する時にその木が邪魔になり、解体業者が勝手に敷地の北西の角に植え替えてしまった、こちらが全く意図しない場所に。だから、その木をまた移動することもできた。でも、しなかった。

BDCDD905-5806-4AB9-8BF3-9E1313B11044.jpeg

突然生えてきて、また意図しない場所に移動して、その状況をそのまま活かして設計することがクライアントが欲していることではないか、その木に父親を重ね合わせているのがわかった。

木を活かすならば、その木がある場所を庭として、外に出られる場所とし、室内の空間と連続させたい、その空間はリビングやダイニングなどの家族が集まる所で、その空間のどこからでもその木が見えるようにしてあげたかった。

8D5386D7-1CFA-4E87-A270-EFE79FD19CD9.jpeg

料理をしてキッチンに立っている時も顔を上げると視線の先にはその木が見え、ダイニングからリビング、リビングからダイニングへと移動する時もその木が自然と視界に入るように。

20D79CB4-0983-486C-9767-1E95544838F5.jpeg

その木から派生して空間の用途を順に決めていった、普通はそのようなことをしないが、この住宅ではそれが最善の設計プロセスだと考え、そして、そのように実現した。

E3D984A7-22EA-443F-A7D7-98E79FF4712A.jpeg

リンク

階段はひとつの見せ場

建築の部位の中で階段は面白い存在であり、設計する時の腕の見せ所でもある。

建築家の村野藤吾は階段そのものを如何に美しく魅せるのかを突き詰めているようであり、その曲線の優雅さは一度見たら忘れられない。また、フィンランドの建築家のアルヴァ・アアルトは階段に機能的な端正さを出しながら、素材に木や鉄や煉瓦などを使い、自然な柔らかさを纏わせ、北欧モダンの空間にナチュラルに馴染ませていく。

いずれも階段をひとつの見せ場だと考えていたのだろう。それは普通に住宅でも同じであり、日常の暮らしの中で階段に様々な役割や活用の仕方や魅せ方をさせる。

空間の広さにはどうしても限界があり、効率的に広さを有効活用しようとして、時に階段の下に便所を配置したりする。便所は腰掛ける所であり、また法規上は居室ではないので、天井の高さに規定がないこともあり、天井が段々と低くなる階段下の空間を有効活用する際にはもってこいである。

ただ、便所にいる時でさえ、それは日常の暮らしの大事な時間でもあるので、いかに心地よく過ごせるかをデザインで考えたいところで、また階段下にあることを何かに活かしたいと考えた。

階段には「蹴上げ」という部分がある。段板と段板をつなぐ縦の部材で板状のものだが、階段のデザインによっては無い場合もあるが、階段下の空間を利用する場合には必要になる。

蹴上げがある場合、通常は板で塞がれているが、そこに乳白色の「ツインカーボ」という名の二重のポリカーボネート板を嵌め込んだ。この板は光を通すが、乳白色で二重になっているので、中は見えない。

3F458E2C-7C8E-4222-B02B-3C3A286188A8.jpeg

便所という暗くて狭いイメージの空間に明るさを取り入れたかった。あと、階段という動線の下にあるので、階段を通る人の動きと便所を関連づけしたかった。

昼間は階段に差し込んだ太陽の光が蹴上げの乳白色のポリカーボネート板を透して便所の中まで柔らかく入ってくる。逆に、夜間は便所の照明の灯りが階段の足元灯の役目をするので、便所の灯りだけを頼りに階段の昇り降りもできる。

9E9BC59D-E91E-4E0D-BAD0-8590D4CD31B3.jpeg

階段とその下の便所の相互関係をデザインし、便所に入り込んでくる太陽の光はその日の天気をも反映する。階段という存在が日常の暮らしの中で様々な事柄をつなぐ役目をする。そのつなぐ役目にはまたまだたくさんある。

リンク

収納家具の軌跡が部屋になる

将来予測をして、なるべく不用な個室はつくりたくないと考え、そもそも広さに限界がある場合にはできるだけ細かく部屋を区切りたくはなく、大きく空間を使う方が広く感じる。

ただ、そうすると、どうしても部屋を分けたい時に困る。例えば、お子さんが男女の組合せの場合は、ある程度の年齢になったら部屋を分けたいが、小さな時は別々に部屋にこもられるのも親としては心配だから、一緒の部屋の方がよく、ところが大人になってもずっと家にいる訳ではないから、部屋を分けた後に大人になって家を出たら、残った部屋は物置きになるケースも考えられる。物置きならまだいいが、単に空き部屋になったら勿体ない。

それは2世帯住宅の2階でのこと、息子さんが将来結婚した時用の空間を用意することになった。

ただ、まだ予定がない、そこで、洗面所と便所を1つの箱状の空間に納め、それだけを固定にし、あとは移動できる同じく箱状の収納家具をいくつか用意した。

9AEA639B-FEFF-4750-8954-3735257D0BDE.jpeg

それ以外は小屋裏収納と壁一面の収納のみで何もない、間仕切り壁のない広い空間だけをつくり、移動できる箱状の収納家具を使って、部屋を2つに分けたり、その場合は想定して出入り口の扉を2つあらかじめつくったが、他にも、その移動できる箱状の収納家具の置く位置によっては、寝室コーナーなどのプライベートスペースをつくり、残りは団欒スペースにするなど、その時の必要に応じて、可変できる空間とした。

F8714D49-96CB-44B2-81B4-55268D219BD3.jpeg

箱状の収納家具を置く位置もある程度何通りも想定して、それに合うように箱状の収納家具の大きさも決めていったが、今伺うと想定外のところに置かれていて、その意外性が面白くて、収納家具は中身を入れたまま移動できるので、模様替えも楽に楽しめるのだろう。

BB2E2F44-7C8E-493A-B2F8-A66D56F4E6B8.jpeg

C2FC6B82-7C09-4341-AE99-626CC27969C1.jpeg

リンク

細長いお風呂場でリビングとつながる

そういうこともありますよね、それもありですよね、ポイントを押さえれば案外いろいろな考え方ができそうで、ただ、ポイントを外すと単なるデタラメになってしまう。

足を伸ばして湯船に浸かりたい、普通にそう思いますよね、そうなると体を洗う洗い場も欲しい、当たり前ですよね、ただ、できる限り広いリビングやダイニングも欲しくて、そこで家族と一緒に過ごしたい、大体、住宅全体の広さは敷地の大きさで決まるので、はじめに数値でわかる。

だから、広さとか狭さを数値でいっても意味がなくて、敷地が急に広がらない限り変わらないので、数値ではなくて、広く感じるのか、狭く感じるのかの感覚で考えていく。ただ、感覚的なことは人による違いが大きいので、自分の感覚を押し付けるようなことはせずに、当たり前だが自分の感覚で設計はせずに、そこに理屈があり、あとはクライアントの感覚に合わせていく。

最大限リビングやダイニングの広さを確保するために、お風呂場をコンパクトに、それもただコンパクトにするだけでなく、お風呂場の形状もリビングやダイニングの広さを確保するために細長くし、それで足を伸ばして湯船に浸かり、体を洗うのにも支障がなく、クライアントは狭く感じない。

6D1BE764-2253-4BE6-B6C9-E7E6DEAA9A31.jpeg

ちなみに、横に細長い窓の先はリビング、湯船に浸かりながらも、リビングともつながるように。

リンク

建ち方で変わることがある

きっとこう建って欲しいのだろうなとおもんばかることも必要だと思う。

広い土地が相続によって小さく分割され、何ヶ月後かにいくつもの建売住宅が出現し、それまでの街並みが変わることがよくある。前の風景を知っている者にとってはその変わりように違和感を覚えるが、なぜ違和感を覚えるかというと、不自然な建ち方をしているからである。

当然、事業なので、建売住宅を建てるために、広い土地を少しでも効率よく分割して、より多くの建売住宅を建てようとする。だから、そこでどのように建ったら、人同士の交流が生まれ、周りの環境とも馴染みが良いかという意識そのものが無いので、周りからしたら不自然に見える。

クライアントのお母さんが住んでいた土地を分割し、兄妹で2棟の二世帯住宅を建てる計画があった。土地を分割するところから設計をしていったのだが、お母さんからの条件が道路に対して手前と奥という土地の分割の仕方はしないで欲しい要望があった。奥になった方が不利になると考えたようだ、あくまでも兄妹でなるべく差が出ないような分割の仕方を望んでいるように感じた。

だから道路に対して、手前と奥では無くて、右と左という分割の仕方にした。ただ、そうすると土地の形が不自然に長辺が長い長方形になってしまう。

701CD6D3-38D6-4B24-AEB3-76557A7772AF.jpeg

ならば、それを利点として、2棟の住宅の間に共用の長い通路を取り、お互いにその通路に面して玄関を設けて、日常の暮らしの中で自然と行き来したり、交流したり、お互いのリビングにある窓も高さを半階ずらして配置し、視線が交差することは無いが、お互いの賑わいや存在が何となくわかるようにした。

4505F7D0-C350-4A94-AA91-5256960CC069.jpeg

それは敷地内の親族同士の交流だが、その交流が自然と周辺環境にも伝播して、何気に人が立ち止まって話込んでいるのをよく見るようになった。

39F8C1D2-EF1B-477B-97F4-D248D424820F.jpeg

F8E8A0C0-1E6B-4ECE-9F36-8EEF1132D0A7.jpeg

リンク

見えそうで見えない距離感が暮らしに必要な時もある

別々にいるのが嫌なのだろうと思った。

最初の打合せで敷地図を見せてもらうと、敷地の形状がほぼ真四角に近かったので、一瞬、コルビュジエの「成長する美術館」が頭に浮かんだ。コルビュジエは3つの美術館を設計し、そのうちの2つがインドにあり、あと1つが世界遺産にもなった上野の国立西洋美術館である。プランは3つともほとんど同じで、真四角の建物の中心部分にエントランスがあり、そこから2階の展示室へ階段でアプローチしていく。展示室は真四角の建物の中を渦巻状に回遊するように配置されており、仕切りがなく展示するための壁が連続しているので、閲覧する方は建物の中を一筆書きに一回りするだけでいい。

打合せでは家族の普段の生活や行動を、特に家にいる時のお互いの距離感を測ろうとつとめる。それは、その距離感がそのままプランに変換できる場合が多いからである。

お話を伺うとクライアントのご主人も奥さんもそれぞれ違う趣味を持っており、休日など家にいてもお互い別々の場所で別々のことをしているらしい。それ自体は普通にあることだし、ではそのお互いの趣味が成り立つように空間を設計すればいいだけだが、問題はその距離感であり、もっというと、その距離感がいつでも同じということだった。

建て替えだから同じ敷地なのだが、それまで住んでいた家は増改築を繰り返したせいか、壁が不自然なところにあり、別々な趣味をするための場所が近くてお互いに干渉していた。そのため、どちらかが先にその場所にいると片方は自分の趣味ができないようだった。

普通ならば、全く違う場所で自分の趣味ができるようにすればいいだろうにと思いのだが、それはしないらしい。要するに、家族がそれぞれ別々なことをしていても同じ空間の中に一緒にいたいのだろうと考えた。

同じ空間の中だが、お互いに干渉することになし自分の趣味ができて、必要な時にはその距離感を縮めて一緒にいることもできるような、お互いの距離感が調整できて、一番離れている時は姿形は見えないが、気配だけは感じるような空間をつくろうとした。

敷地の形状なりに設計すると、ほぼ真四角の建物になるので、真四角の真ん中に2階へ上がる階段を配置して、1階をその階段を中心にキッチン、ダイニング、リビング、玄関と配置して、ぐるぐると回遊できるようにし、お互いの距離感を自由に調整できるようにした。

57782978-4D25-4719-9ED1-2295FC18FB1C.jpeg

その距離感の調整に一役買ったのが真四角の中心に配置した階段である。階段と1階の空間は透明のアクリル板で空調の仕切りをつくったが、場所によって階段の下の部分の壁の高さが違うので、階段越しにお互いが見える範囲も違ってきて、同じ空間にいながら、お互いが見える見えないの調整が少し移動するだけで容易にでき、一番見えないところでも気配はお互い感じることができる。

だから、空間の使い方しだいでお互いの距離感を自由に設定できるので、何年か毎に少し模様替えするだけで、全く違った空間体験もできるだろう。

7D99A41C-8B72-4274-A678-A218928F50FB.jpeg

225B3F5A-108B-4196-90DC-2F05B3D85CF1.jpeg

F289A593-F5E4-407F-8DE9-8FBB6702C2C7.jpeg

A99A0E1E-57E2-4D8C-B41A-90211A6AD250.jpeg

2282FBAE-BFAC-47CF-8FAE-AFA729C97474.jpeg

リンク